OJTが属人化する原因とは?新人教育を仕組み化・標準化する方法
「教える人によって、新人の成長スピードが違う」
「OJT担当者が変わると、教える内容まで変わってしまう。」
「どこまで教えたのか、本人以外にはわからない。」
新人教育を現場中心で行っている企業では、このような問題が起こることがあります。
OJTは、実際の業務を通じて仕事を覚えてもらえる有効な育成方法です。一方で、教育の進め方を現場社員それぞれに任せてしまうと、指導者の経験やスキル、業務状況によって教育内容や品質に差が生まれやすくなります。
これが「OJTの属人化」です。
OJTが属人化すると、新人が十分に育たないだけでなく、教育を担当する社員の負担増加や、教育品質のばらつき、育成状況が把握できないといった問題にもつながります。
この記事では、OJTが属人化する原因と、現場任せの新人教育から脱却し、再現性のある育成体制をつくるための具体的な方法について解説します。
OJTの属人化とは?
OJTの属人化とは、新人教育の内容や進め方、評価方法などが、会社として決められた仕組みではなく、特定の社員の経験や判断に依存している状態です。
たとえば、同じ会社・同じ職種に配属された新人であっても、Aさんが教育担当になった場合とBさんが担当になった場合で、教えてもらえる内容や順番、フィードバックの量が大きく異なることがあります。
Aさんは業務の背景から丁寧に説明し、実践後にフィードバックまで行う。一方、Bさんは忙しいため、まず仕事を任せて、わからないことがあれば質問してもらう。
どちらの担当者にも悪意があるわけではありません。しかし、会社として教育方法が決まっていなければ、このような違いは自然に発生します。
結果として、新人の成長が「どの部署に配属されたか」「誰が教育担当になったか」に左右される状態になります。
厚生労働省のOJTに関する資料でも、教育担当者によって教え方にブレが生じないよう、標準的な指導手順を決め、属人的にならない形で指導する重要性が示されています。
また、その結果新人が不満や不安を感じ、早期退社してしまうというリスクも潜んでいます。
つまり、OJTそのものが問題なのではありません。
問題なのは、OJTを「現場の社員がそれぞれのやり方で教えるもの」として運用してしまうことです。
OJTが属人化している企業によくある状態
自社のOJTが属人化しているかどうかは、いくつかの状態から判断できます。
教える内容が担当者によって違う
典型的なのが、教育担当者によって教える内容が異なるケースです。
ある担当者はExcelや資料作成まで細かく指導する一方、別の担当者は実際の業務をこなしながら覚えてもらう。ある部署では報告や相談の方法まで指導しているものの、別部署では特に教えていない。
この状態では、同じ会社の新人であっても身につくスキルに差が生まれます。
「見て覚える」が中心になっている
先輩社員の仕事を見ながら覚えてもらう方法もOJTの一つですが、それだけに依存すると教育が属人化しやすくなります。
経験のある社員にとっては当たり前にできる仕事でも、新人にとっては「なぜそうするのか」がわからない場合があります。
業務手順だけでなく、判断基準や考え方まで言語化されていなければ、仕事を再現できる状態にはなりにくいでしょう。
新人がどこまで成長したのかわからない
OJT担当者は新人の状況を把握していても、人事担当者や上司が把握できていないケースもあります。
「最近はだいぶできるようになった」
「まだ一人では難しいと思う」
といった感覚的な情報だけでは、具体的に何ができ、何ができないのか判断できません。
定量的な数値で判断し、その新人にとって何が十分で何が不足しているのか?を判断してあげる必要があります。
育成状況が可視化されていないことも、属人的なOJTの特徴です。
フィードバックの内容や頻度が違う
新人を育成するうえでは、業務を経験させるだけでなく、その結果に対してフィードバックを行うことが重要です。
しかし、フィードバックの方法が決まっていなければ、担当者によって大きな差が生まれます。
毎回成果物を確認して改善点を伝える担当者もいれば、問題が起きたときだけ指摘する担当者もいます。
これでは、新人本人の能力だけではなく、教育環境によって成長スピードが変わってしまいます。
OJT担当者が不在になると教育が止まる
特定の社員だけが新人教育の方法や進捗を把握している状態も注意が必要です。
担当者が休暇や異動、退職などで不在になった場合、新しい担当者が「何をどこまで教えたのかわからない」という状態になれば、教育を継続することが難しくなります。
教育に関する情報が個人ではなく組織に蓄積されているかどうかは、OJTを仕組み化するうえで重要なポイントです。
OJTが属人化する5つの原因
では、なぜOJTは属人化してしまうのでしょうか。
多くの場合、担当者個人の能力ではなく、会社側の教育設計に原因があります。
1.育成のゴールが決まっていない
最初に確認したいのが、「新人をどの状態まで育てるのか」が明確になっているかです。
「一人前になってもらう」
「早く仕事を覚えてもらう」
「一人で業務ができるようになってもらう」
これだけでは、教育担当者によって解釈が変わってしまいます。
たとえば営業職であれば、
・一人で商談を進められる
・顧客の課題をヒアリングできる
・提案資料を作成できる
・上司へ適切に報告・相談できる
・商談後のフォローを自分で行える
といったように、具体的な行動や成果物まで落とし込む必要があります。
育成ゴールが曖昧なままでは、教育方法を標準化することもできません。
2.教育内容や順番が決まっていない
「まず何を教え、その次に何を経験させるのか」が決まっていない企業も少なくありません。
この場合、OJT担当者は自分自身が新人だった頃の経験や、自分なりの仕事の進め方をもとに教育することになります。
その結果、担当者ごとにカリキュラムが存在するような状態になってしまいます。
OJTを仕組み化するためには、最低限、何を・どの順番で・どこまで習得するのかを共通化する必要があります。
3.教育担当者が本業と兼任している
新人教育だけを担当している社員は、多くの企業ではそれほど多くありません。
通常は営業、企画、事務、マネジメントなどの本来業務を持つ社員が、OJT担当者を兼任します。
そのため、繁忙期には新人教育の時間が取れなくなったり、質問への回答が遅れたり、フィードバックが後回しになったりします。
優秀な社員ほど教育担当に選ばれやすい一方、その社員に教育業務まで集中すると、本来業務の生産性が下がる可能性もあります。
この問題は担当者の意識だけでは解決できません。教育に必要な時間や業務を会社として設計する必要があります。
4.評価基準が統一されていない
新人に対する評価が、
「よくできている」
「もう少し経験が必要」
「まだ任せるのは不安」
といった感覚だけになっている場合も、属人化しやすくなります。
ある担当者にとっての「できている」と、別の担当者にとっての「できている」が同じとは限りません。
そのため、評価するときは「何ができれば合格なのか」という基準をできる限り具体化することが重要です。
5.教育記録が残っていない
口頭での指導だけでOJTを進めると、教育ノウハウが会社に蓄積されません。
誰に何を教えたのか、どこでつまずいたのか、どのようなフィードバックを行ったのか。
こうした情報が記録されていなければ、翌年の新人教育でも同じことを一から考える必要があります。
OJTを継続的に改善するためにも、教育内容と育成結果を記録する仕組みが必要です。
OJTの属人化を放置すると何が起こる?
OJTの属人化は、「教育方法が人によって違う」というだけの問題ではありません。
長期的には、企業の人材育成そのものに影響します。
新人によって教育品質に差が生まれる
最も大きな問題は、新人が受けられる教育の質に差が生まれることです。
本人の努力や能力ではなく、配属先や教育担当者によって成長機会が変わる状態は、組織として望ましいとはいえません。
新人の戦力化まで時間がかかる
必要なスキルや到達目標が整理されていなければ、「何となく仕事を経験する期間」が長くなります。
一方、習得するスキルや順番が整理されていれば、現在地と次に習得すべきことが明確になります。
新人を早期に戦力化するためにも、育成プロセスの可視化は重要です。
教育担当者の負担が増える
仕組みがなければ、教育担当者は新人が入るたびに、
「何から教えよう」
「次は何をやらせよう」
「どこまで理解しているだろう」
と考えなければなりません。
教材、課題、評価基準、進捗管理の仕組みが整っていれば、この負担を軽減できます。
教育ノウハウが会社に残らない
教育が優秀な社員個人に依存していると、その社員が異動・退職したときにノウハウまで失われます。
人材育成を継続していくためには、「教えるのが上手な人を増やす」だけでなく、「誰が担当しても一定水準の教育ができる仕組み」を残すことが必要です。
最悪の場合、早期離職してしまう
OJTが不十分で放置されていると、新人は「この会社大丈夫?」「育てる気がないのかな?」と、
不安や不安を感じる様になります。
筆者自身も、社会人1年目の時に上司から放置されてしまい、1日WEB上で勉強だけさせられるといった経験もあります。
そうなってしまうと、向上心のある新人ほど不満が募り、より成長できる企業に転職すると言う判断に至ってしまいます。
適切なOJTの運用は離職率をも下げる効果があると言うことです。
OJTを仕組み化・標準化する5つのステップ
OJTの属人化を解消するために、すべての教育をマニュアル化する必要はありません。
重要なのは、育成の土台となる部分を共通化することです。
STEP1.新人に求める到達レベルを決める
最初に、「研修終了後にどのような仕事ができればよいのか」を定義します。
職種単位で必要な業務を洗い出し、「知っている」ではなく「できる」という状態で設定することがポイントです。
たとえばExcelであれば、「Excelの基本操作を理解している」ではなく、「売上データを整理し、必要な集計を行い、上司へ提出できる」と設定したほうが評価しやすくなります。
営業であれば、「商談について理解する」ではなく、「顧客へのヒアリングから提案までを一連の流れとして実践できる」といった形です。
STEP2.必要なスキルを分解する
最終的なゴールが決まったら、そこへ到達するために必要なスキルを分解します。
たとえばビジネス職であれば、
・PC・ITツールの操作
・Excel、Word、PowerPoint
・タスク管理
・報告・連絡・相談
・資料作成
・論理的思考
・コミュニケーション
・顧客対応
・問題解決
などがあります。
このように分解することで、新人本人も「自分が何を身につける必要があるのか」を理解しやすくなります。
STEP3.実践課題を用意する
知識を説明するだけでは、実際の業務で使えるかどうかは判断できません。
そこで有効なのが、実務を想定した課題です。
たとえば、
・売上データをExcelで集計する
・会議内容を整理して報告文を作成する
・提案資料をPowerPointで作成する
・上司への報連相を想定した文章を作る
・顧客との商談を想定してロールプレイをする
といった方法があります。
実際に成果物を作ってもらうことで、「理解しているか」ではなく「実際にできるか」を確認できます。
STEP4.評価基準とフィードバック方法を統一する
課題を実施したら、その評価方法も共通化します。
たとえば資料作成であれば、
・指示を正しく理解しているか
・必要な情報が整理されているか
・内容に誤りがないか
・相手が理解しやすい構成になっているか
・指摘された内容を次回改善できているか
などを評価項目として設定できます。
評価基準があれば、担当者による感覚的な評価を減らせます。
また、一度提出して終わりではなく、フィードバックを受け、修正し、再提出するプロセスを組み込むことも重要です。
実務では、一度ですべてを完璧にできることよりも、指摘を理解して改善できることが求められるからです。
STEP5.進捗を会社として管理する
最後に必要なのが、育成状況の可視化です。
「誰が何を学んだのか」
「何ができるようになったのか」
「現在どこにつまずいているのか」
「次に何を学ぶ必要があるのか」
を教育担当者だけではなく、人事や上長も把握できる状態にします。
重要なのは定量的な判断を可能にすることです。
OJTを「担当者と新人の間だけで行われる教育」から「会社として管理する育成」に変えることが、属人化を防ぐうえで重要です。
OJTの標準化は「全員に同じ教え方をすること」ではない
OJTを標準化すると聞くと、「すべてマニュアル通りに教えるのでは、個人に合わせた教育ができなくなるのではないか」と感じる方もいるでしょう。
しかし、標準化するべきなのは、育成の土台です。
例えばパソコンでのツール操作や資料作成などができる新人営業と、
パソコンを触ったことのない新人事務員では、実施する内容や教え方、そもそもの研修スタート地点が大きく異なります。
「何を身につけるのか」
「どこまでできればよいのか」
「どのように評価するのか」
という基準を共通化したうえで、新人一人ひとりの理解度や得意・不得意に応じて、フィードバックやサポート方法を変えていくことが理想です。
すべての新人に同じ対応をすることが標準化なのではありません。
誰が教育担当になっても、必要な教育機会と一定水準の評価を受けられる状態をつくることが、OJT標準化の目的です。
OJTをすべて社内で仕組み化する必要はない
ここまで紹介した仕組みを自社で構築することも可能です。
一方で、
・育成カリキュラムを設計する
・教材や実践課題を作成する
・新人からの質問に対応する
・成果物を確認する
・フィードバックする
・ロールプレイを実施する
・進捗を管理する
・習熟度を評価する
ところまで継続的に行うには、相応の教育工数が必要になります。
特に、教育担当者が通常業務とOJTを兼任している企業では、「仕組み化するための時間そのものがない」というケースもあります。
その場合は、すべてを社内で抱え込むのではなく、教育の一部を外部へ委託する方法も選択肢になります。
社内でしか教えられない自社独自の業務や企業文化は社内で担当し、汎用的なビジネススキルや実践課題、フィードバック、進捗管理などを外部へ任せるという役割分担も可能です。
新人研修を外部へ委託する方法については、「新人研修を外部委託するメリットとは?内製との違い・向いている企業を解説」でも詳しく紹介しています。
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すべての教育を外部に任せる必要はありません。
自社で教えるべきことと、外部に任せられることを分けることで、現場の教育負担を抑えながら、継続できる新人育成の仕組みをつくることができます。
まとめ|OJTの属人化は「人」ではなく「仕組み」を見直す
OJTが属人化していると、「教育担当者の教え方に問題がある」と考えてしまいがちです。
しかし、多くの場合、問題は担当者個人ではありません。
育成ゴール、教育内容、実践機会、評価基準、進捗管理といった教育の仕組みが十分に整っていないことによって、担当者それぞれの経験や判断に頼らざるを得なくなっているのです。
OJTの属人化を解消するためには、
・新人に求める到達レベルを決める
・必要なスキルを分解する
・実務に近い課題を用意する
・評価基準とフィードバック方法を統一する
・育成状況を会社として可視化する
という流れで、教育を「人任せ」から「仕組み」へ変えていくことが重要です。
新人教育やOJTの仕組み化を検討しているものの、「社内だけでは教育設計や運用まで手が回らない」「教育担当者の負担を減らしたい」「新人による教育品質の差をなくしたい」という課題がある場合は、外部OJTを活用する方法もあります。
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